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顧客の要望はいつも解決策じゃない

以前会社に勤めていた時のことです。わたしたち開発部門のメンバーは、毎週カスタマーサポートの担当者とのミーティングの時間を設けていて、そこで今週はお客様からこんな要望があったとか、こんな問い合わせがあったとかいう話を聞いて、今後製品に取り入れるかどうかの検討をしていました。わたしたちが開発していたのは、会社で他の社員と連絡を取り合ったり、予定を管理したりするソフトウェアでした。ある時、カスタマーサポートの担当者から「製品の画面から画像をなくしてほしい」といわれました。はて、どういうことだろう。昨今のソフトウェアには普段スマホの画面を見ていてもわかるように、見た目をよくしたり操作しやすくするために画像がたくさん使われています。画像をなくしてしまうと文字だけになってしまいます。質実剛健なマニアには受けるかもしれませんが一般の人には使いづらそうです。どうして画像をなくしてほしいのかと尋ねると、それはわからない。とにかくお客様が画像をなくしてほしいといってるとの一点張りでした。可能性としては目の不自由なユーザーが読み上げソフトなどを使うときに支障があるということも考えられますが、その情報だけではなんともいえません。ミーティングでは個々の要望に対して、将来対応を検討するかどうかを判断していましたが、その要望は当然、「対応しない」となりました。

翌週のミーティングで、カスタマーサポートの担当者がこんなことをいってきました。「こないだのお客様なんですけど、どうして画像をなくしたいのかわかりました。外出先でアクセスすると遅いからだそうです」それを聞いてわたしたちは納得しました。つまりお客様が本当に望んでいたことは画像をなくすことではなかったのです。外出先から快適にアクセスできるようにしてほしい、というのが本当の要望なのでした。こんなふうに顧客は自分のやりたいことが明確なときでさえも、独自の解決方法を提案しようとするものです(最初からそういってくれればよかったのに!)。サクサク表示したいのであれば、画像なんかなくさなくてもいくらでも手立てはあります。わたしたちは、表示速度の向上について効果が高そうないくつかの対応を検討することを決めました。その場にいたメンバーの中にはもしかしたら、お客様が画像をなくせといってるからなくした方がいいと思っていた人もいたかもしれません。でも以前の要望をそのまま鵜呑みにしていたら、誰も喜ばない結果になっていたでしょう。さらにいうと、表示をもっと速くしてほしいと思っていたのはこのお客様だけではありませんでした。実際その対応を行ったことで、たくさんのユーザーが喜んでくれました。われわれは画像をなくしてほしいという要望の本質を知ることで、大きな改善の機会を得たことになります。

前回隠れたショーストッパーを探すには顧客サポートが有効だということを書きました。今回は顧客の声をサービスの改善に生かすためのポイントをいくつか紹介してみたいと思います。

想像力を働かせる。背景を知る

冒頭のエピソードでもおわかりいただけたように、顧客は素直に自分たちが本当に望んでいることをなかなか話してくれません。またその業界の専門家である自分たちのように知識があるわけでもありません。時には全く的を得ない質問に困惑することもあるでしょう。そんな時は想像力をフル動員して相手の意図を汲み取ってみてください。夜遅くにケーキを売ってほしいといわれたらそれは隣にある夜のお店に持っていきたいという意味です(知らんけど)。背景がわからない時はシンプルに尋ねましょう。解決したい問題がわかればそれはほとんど解決したようなものです。


最適な解決方法を提案する

顧客が解決したい問題がわかれば、解決方法を考えるのは顧客ではなくあなた自身です。いわれたとおり素直に夜中にケーキを売るのではなくて、閉店前に隣のお店に配達してあげた方がずっと喜ばれるかもしれません。前に近所にあったラーメン屋なのですが、壁に「お客様のお好みに合わせて味変えます」と書いてあった店がありました。その店は1年もたたずに閉店しました。顧客に解決方法を考えさせるのは完全に間違ったアイデアです。


あればいいことよりも不満に思っていることを聞く

ファンになってくれるお客様の中には、こんな機能があればいいなど色々提案してくださる方もいらっしゃいます。そういうお客様はもちろん嬉しいものですし、応援されているというやりがいにもつながります。いい気分になってついついそういう声ばかり聞いてしまいがちですが、本当に耳を傾けないといけないのはむしろ厳しい声のほうです。ここがダメで使えなかった、ここが嫌いだからもう利用するのをやめるという厳しい意見をもらうと正直いい気持ちにはなりませんが、それが明らかに利用しない原因であるのならば、優先して改善すべき事柄が明らかになったという意味でその意見はとても価値があります。ただ注意しないといけないのは、これがないから買わないよと誰かにいわれたとして、必ずしもあれば買うわけではないことです。経験からいうと、そういう人はただ買わない理由を探しているだけなので、素直に要望を叶えたところでまず買ってくれません。


議論しない

お客様からの、「自分はこうだと思っているからこうであるべき」みたいな意見に対して、「いえそれは違います。なぜなら・・」みたいな議論をするのは不毛でしかありません。ルールはこちらが決めるものですから、お客様からの説得に耳を貸す必要はないのです。もちろん相手の言い分も一理あるなと思うこともあるでしょうが、自分たちの判断でルールを変えればいい話で、お客様と議論して勝っても負けてもいいことはありません。


意見をくれたことに感謝する

最後に、良い意見であれ悪い意見であれ、時間を割いて声を届けてくれたお客様には感謝の気持ちを持つようにしています。中には全くもって最後まで意図が理解できなかったお問い合わせや細かいクレームなどもありますが、そういったものも含めてありがたいなと思うべきです(露骨な中傷や営業などは論外として)。でないと顧客対応というものはできればやらずに済ませたいもの、身構えてしまうものになりがちだからです。そういう気持ちが相手に伝わってしまうと、せっかくの改善の機会を失うことになりかねません。

小さい事業ではお客様全員の要望を満たすことはできません。ですが事業を始めて間もない時期であれば、どのみち多くのお客様を喜ばせることはできないのですから、まず目の前のお客様の小さな困りごとや要望を聞いてあげて、喜んでもらえればいいのではと思います。そしてそういう頃に聞く要望というのは他の人も望んでいることが多いものです。なぜかというと当たり前のことができていないからです。お客様が当たり前だと思うことでも、提供する側になると見えていないことはよくあります。

耳を傾けるべきはお客様の声ではなくその奥にある本当の要望です。そこにはそれまで気づかなかった意外なヒントが見つかるかもしれません。