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これから地方で働く人に話しておきたいこと

これから地方で働く人に話しておきたいこと
引退したら都会を離れてのんびり田舎暮らしを夢見ている人も多いと思いますが、最近わたしの周りでは、現役世代で地方に移住した人をよく見かけます。移住先は関西だったり九州だったり東北だったりとさまざま。生まれ育った場所ではなく、その土地が気に入ったから移住したという人も増えています。
今回お話を伺う星野智久さんは、新潟県長岡市に住んでいます。東京から新幹線で1時間半。東京のIT企業で働きながら、自ら長岡で仲間と会社を立ち上げ、移動するドラム缶風呂や冬の野球場を貸し切ったかまくら作りなど、長岡でしかできない個性的なイベントを開催しています。リモートワークの普及でどんな場所でも働くことが可能になった今、地方で働き、暮らすことの現実を星野さんに聞いてみました。

門屋:今ってやっぱりコロナの影響もあって、わざわざ都会の狭い部屋でリモートワークしなくていいじゃんって、地方に引っ越す人が僕のまわりにもけっこういて、プチ移住ブームみたいになってると思うんです。メディアなんかでも地方暮らしが取り上げられたりしてるんですけど、地方で働いたことがある自分なんかはそんないいことばかりじゃないだろうと。例えば住んでみたら部屋に虫が出て怖くて眠れないとか、そういう実際に生活してみて初めてこれは厳しいぞってわかることもあると思うんですよ。

星野:それはありますね。

門屋:なので今日は地方で働くことのリアルな部分を伝えられたらなと思っているんですが、星野さんご自身は長岡以外でも働いたことがありますか?

星野:新卒で新潟の会社に就職したんですが、すぐに東京の客先に行けといわれて、そこで7年間システムエンジニアとして働いていました。いわゆるSESってやつですね。関わっていた案件が終わったら次の案件に行く感じで、7年。リーマンショックがあって、出向していた会社が親会社と統合になったんですね。それで働いていた会社が新しい会社の規定に当てはまらなくなったとかで、名古屋の別のところに出向しろといわれたんですが、拒否してお世話になりましたって言ったら(笑)、新潟へ戻ることになりました。

門屋:新潟に戻ってからは地元の仕事を?

星野:はい、ぶっちゃけいうと、生活は規則正しくなりましたし、家族といられるので安心できる反面、仕事は東京にいた頃と比べてギャップがかなりありました。東京で大きな会社から受注したものを新潟の子会社、孫会社で受けて、自分がいた会社がさらにそれを下請けしてみたいな感じで、仕事の内容としてもレベルが低いなと感じるものがありました。職場も、良く言えばゆったりしてるっていうんですかね、自分ごとにしないような風潮があって、働いていて楽しくはなかったです。

門屋:そのときはおいくつくらい?

星野:28(歳)くらいですかね。

門屋:それくらいだと、キャリアの不安もありますよね。

星野:なにより、SESの仕事に飽きちゃってましたからね。さっき言ったみたいな下請けの現場ってミスしても怒られることはほとんどなくて、生ぬるいっていうか、遠くで見ている感じというか、このままこんなこと続けていくのかっていう不安はありました。

門屋:転職するにも、地方だとどこ行っても下請けで、やってることは大差なかったりしますよね。

星野:そうなんですよ。だからその中で下に見える人を探すような空気もありました。あそこの会社は残業代が出ないらしいぜ、とか。そういうのが嫌だなと思っていたときに、元いた取締役の人が新しい会社を作ることになって、僕が最初の社員になりました。その社長が、これからはクラウドサービスを使ったビジネスがやりたいと言っていたんですけど、僕もSESしかやったことないわけですからね。いろいろ調べて、あるときたまたま行ったクラウドサービスのイベントで、これはすごいなと思うものに出会いました。全国の有志の人たちがそのサービスのコミュニティを作っていることも知って、それで自分も新潟でイベントをやらせてくださいってお願いして、コミュニティに入れてもらいました。

門屋:星野さんは現在、長岡にいながら東京に本社のある会社で働かれています。これは当時のコミュニティでの活動がきっかけになったわけですか?

星野:そうです。コミュニティの一員として全国のイベントに足を運んだり、新潟でイベントやっているうちに知り合いが増えて、結果的に転職につながりました。

門屋:転職したとき。これだ、という方向性があったのでしょうか。

星野:今の会社では取締役がいきなり「わたし会社作るから」といって副業で別の会社を立ち上げたり、ハワイに行ってワーケーションをしてみたりするんです。そんなことできるんだ、って衝撃を受けました。これは僕の働き方の道しるべになっています。さっきコミュニティがきっかけで転職したと言いましたけど、実はそこでも悩みがあって、コミュニティ活動って本来、それが好きな人が集まってやるものじゃないですか。新潟の場合は、興味があるからじゃなくて、イベントに誘われたから行く、みたいな。しかもそれがだんだん固定のメンバーになってしまっていて、あるとき「ごめん、今日は行けない」と言われたときはがっくりきました。誰も強制してないし、なんで謝るんだって(笑)。だから転職してからは本当にやりたい人たちと、やりたいことをすればいいんだなって吹っ切れた感じがあります。

門屋:以前、星野さんがドバイやカンボジアでワーケーションしている写真を見たことがあります。副業の会社も立ち上げたんですよね。

星野:そうです。そっちは移動式のドラム缶風呂をレンタルするサービスをやったり、野球場でかまくら作りのイベントをしたり、飲食のテイクアウト事業もやってます。メンバー全員副業です。

主催するイベントの様子

門屋:地方で働くなら、複数の仕事を兼業するのが当たり前と言われます。例えば農家だけで食べていくとか、お店だけで食べていくのは難しい。星野さんの場合、東京に仕事を持っていて、経済的に自立できていることは大きなアドバンテージといえますね。

星野:本業でご飯食べられるだけしっかり稼げているので、食べるために副業しなくていいのは大きいです。さっき挙げた事業も、現状それだけで儲かるわけではないんですけど、地域の人たちが喜ぶような事業に投資することは自分たちもやりがいがあるし、将来の活性化にもつながると思うんですよ。

門屋:逆にそっちは地方でやるからこそ生きるものですよね。東京で仕事をして得たお金を、地方でしかできないことに使うのは地域にとっても正しいお金のまわし方だと思います。昔だと出稼ぎになりますが、今はリモートワークでそれが可能だし、無理に地方でお金稼がなきゃと思うと、東京の感覚ではそうとう厳しいです。地方でシステム開発の見積もりを出したら、100万円かかるものを20万でといわれたことがあります。足元みられたとしてもそんなわけないだろうと。

星野:給料が低くても物価が安いから問題ないと思われがちですけど、家賃は安くても車が必要です。しかも大人ひとりにつき1台必要なんですよ。新潟だとさらに、雪対策で光熱費や人件費がけっこうかかりますしね。

門屋:僕が地元でひとりリモートワークしていたのはもう20年も前なので、今とはだいぶ状況も違うとは思いますが、コロナでもだいぶ変わってきましたか?

星野:全体的にリモートでの打ち合わせに抵抗が減ったのと、地方の人たちの理解が進んだと思います。私自身、変わった働き方をしているので長岡市の外部理事をやったりしていて、働き方のセミナーに呼ばれたりもするんですが、前は参加している人も、自分には関係ないという感じだったのが、少しずつ自分ごとに見られるようになってきた気がします。

門屋:昔、自分だけリモートだった頃は、意見が無視されたり、言ったことがうまく伝わっていなかったりして非常にストレスフルだったんですよ。みんなリモートになると全員が相手のことを配慮するようになりました。リモートワークに向いている人と向いていない人っていると思いますか?

星野:必要なときに、必要な人と話せばいいなと思える人は向いているんじゃないですかね。逆に常に周りに人がいないと不安な人や、マウントを取っていたいは向いていないからもしれません(笑)。ネットの会議だと主導権が取りづらいから会社に来いみたいな。あとはただ話を聞いているだけの人も難しいでしょうね。昔だったら、必要なくても会議でていたら仕事しているふうだったけど、リモートだと発言しない人は会議に呼んでもらえないですから。

門屋:長岡の魅力と、ぶっちゃけ住んでいてつらいところを教えてください。

星野:アクセスしやすいのは他の地方と比べて利点のひとつかなと思います。東京から新幹線で1時間半とかで来られますから。あとやっぱり、雪っていう巨大な資源がありますね。雪が降る地域は他にもありますが、新潟の雪っていうのはすごいエネルギーを持っていると思っていて、重たい雪なんですよ。黙ってても3メートルとか5メートルとか積もるんですけど、やっかいものなんですね、住んでる人間からすると。だけど雪のない地域から来ると、ちょっと降っただけで騒ぐじゃないですか(笑)。雪をうまく利用すれば、スキーやスノボじゃなくても、なんでもない日に楽しんでもらえるしくみを作れる可能性を秘めていると思っています。逆もしかりで、住んでいる人間ですら大変なので、移住してきましたってなったときにはすごい苦労すると思いますね。雪のない地域からすると想像できないかもしれませんが、朝起きたら腰まで雪が積もってるとか。道路に雪を溶かすための水が通っているので、車なしだと歩けません。

門屋:そういうことはまったく想像できないですよね。僕も初めて来て、なんでこのへんの道が赤いのかなと不思議に思ってました。あれ冬に水が流れるから錆で変色するんですね。中にはかつての僕や星野さんのように、積極的な移住じゃなくて、例えば家族の介護で実家に戻られる方とか、ここでどうやってキャリア積んでいけばいいだろうって悩む方もいると思うんですね。そういう方も含めて、これから地方で働く人にアドバイスがあればお願いします。

星野:ひとりで悩むのはやめたほうがいいと思います。自分で想像しているとどんどんマイナスになるので、どういう働き方なら自分ができるのか、理想に近い働き方をしている人が周りにいないのか、知ることが大事です。今なら私みたいに変わった働き方をしている人がたくさんいるし、みんな、自分どんなふうに働いているのか話したいと思っています。そういう人をつかまえて、話を聞いてみたらいかがでしょうか。

星野智久

新潟県長岡市在住。株式会社ジョイゾー勤務。クラウドサービスkintone専門のエンジニアとしてフルリモートワークで働きつつ、合同会社ノンビンビーンの代表も務める。