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​新しいアイデアはどこからやってくるか

フリーランスや自分で商売をやっている人にとっては、「考えること」がもっとも重要な仕事ではないかと思います。誰も指示してくれる人はいないので、新しい仕事を自分で考えないとそもそもやることがないし、なにか問題が起こったときに解決することもできません。何となくアイデアって思いつくものだしあまり意識しないよっていう人も多いと思うんですが、普段僕はこうやって考えているなっていうプロセスを分解してみました。けっこう考えることって、仕事で軽視されがちなのではないかと思っています。

神様は考えない人にアイデアを与えない

よく、著名なアーティストやクリエイターが「作品が天から降りてきた」というような表現を使うことがあります。それを聞くとなんとなく、アイデアというのはなにもないところから急に思いつくような印象を受けます。僕もときどき神様がアイデアを与えてくれたと感じる瞬間がありますが、よっぽどの天才でもない限り、神様がくれたアイデアの前には無数の平凡なアイデアがあるものです。それまで長い時間その問題について考え続けてきて、たくさんの平凡なアイデアを持っていたからこそ「気づいた」のであって、ただ漫然とうなっているだけで天からアイデアが降ってくることはありません。つまり何がいいたいかというと、「ホームランを打つには、いっぱい練習してたくさん凡打を打つ必要がある」ということです。今持っているものより少しでもベターなアイデアを求めてアウトプットし続けている状態のことを「考えている」というのだと思います。逆に考えていない状態というのは、じっと黙って難しい顔はしているけれども何もアウトプットが出ていない状態のことで、それはただ悩んでいるだけです。だから「良いアイデア」と「よく考えられたアイデア」はほぼ同義です。

同じ問題について、僕と他の人が長い時間考えてみたら、たどりついた結論は同じだったという経験をすることがよくあります。人間が考えることというのはそれほど大きな違いがあるわけではないので、同じことを考えるなら、どれくらいの量を考えたかによって違いが出ます。特に前提とする条件が共有されていて、Aと取りますかBを取りますかみたいなときには、直感ではなくて、より長く深く思考を費やした人の意見を聞いたほうがうまくいくことが多いです。

何について考えているのかをはっきりさせる

そもそも今何について考えているのかがわからないと、アイデアを出すことはできませんよね。考え始める前にゴールを決めておきましょう。例えば、

  • 夕飯の献立を何にするか考える
  • 芥川賞がとれる小説のテーマを考える
  • 地球温暖化の解決策を考える

とかです。はい、ゴールが決まりました。候補は無限にありますし、ベストな候補を決める判断基準もありません。だから「考える」必要があります。なんとなく、夕飯の献立のほうが、地球温暖化の解決策よりも決めやすい感じはします。それはなぜかというと、考える範囲がおのずと限定されるからです。別に夕飯にアクアパッツァを作っても北京ダックを作ってもいいので実際は無限に考えられるはずですが、実際は近所のスーパーに売っているものですませたいし、自分が嫌いなものは食べたくないし、あんまり高い材料は買いたくないからです。そうすると考える範囲は狭くなって、候補が出しやすくなります。こんなふうに、難しい問題を考えるときも考えるべき範囲をどんどん限定していきます。そうでないと無限の可能性を考えないといけなくなり、何に着目することもできなくなってしまうからです。余談ですがAIはこういう処理が苦手で、AIのフレーム問題と呼ばれています。

考える範囲を限定するには、ゴールを分解して、例えば芥川賞がとれるには審査員に気に入られる必要がある。審査員はおじさんばかりだからおじさんが好きな小説がいいはずだと思い込んだとします。そうするとおじさん受けしそうなゴルフとカメラを合わせた題材はどうだろうかと考えられます(実際うまくいくかは知りません)。もしくは自分の好きなもの、得意なものに限定してしまうやりかたもあります。苦手なものや嫌いなものはアイデアを思いついたとしても実行するモチベーションが湧きにくいからです。こんなふうに何らかの判断基準によって、考える範囲(フレーム)を決めます。ただあまりにもありきたりな判断基準でフレームを決めてしまったり、フレームを狭くしすぎてしまうと、ありきたりなアイデアしか出てこないことがありますので、フレームをどうやって決めるかはプロセスの中で重要な要素です。

フレームが決まったら

フレームが決まったら、その枠の中でとにかくアイデアをたくさん出します。

アイデア出しの手法は調べればいくつもあると思いますが、僕が普段やっているのはこういう感じです。

  • 既存の似たものを調べる
  • 選択肢をすべて書き出してみる
  • ひっかかるものを深堀りする
  • 人と話して意見をもらう
  • 前提や思い込みを疑ってみる
  • 違うものを組み合わせる

例えば家庭でできる中華料理というフレームを決めたのであれば、他の人がどんな料理を作っているかまずネットで調べてみてもいいし、家で作れそうな中華料理を全部リストアップしてもそんな膨大な数にはならないでしょう。最初はいいアイデアだなと思った酢豚がよく考えてみると条件と合わなかったり、逆にイマイチと思った蒸鳥をアレンジすればこれはこれでアリということに気づいたりします。

いろいろ頑張っても良いアイデアが浮かばないとき、僕の場合は外に出て違う景色を見る(本当は車でドライブ。できたら誰かに運転してもらうほうがいい)か、ちょっとでも疲れているならすぐ寝てしまいます。眠ることで脳で情報が整理されるので、僕の場合は十分睡眠をとって、朝布団でぐずぐずしているときが一番考える時間に適しています。最近はないですが、若い頃は起きた瞬間に完全に問題が解決していた経験が何度もあります。

それでもアイデアが浮かばないなら、思い切ってフレームを変えてみます。良いアイデアを見つけるのは、だだっ広い野原で四つ葉のクローバーを探すようなものです。以前テレビで、遠くからでも一瞬で四つ葉のクローバーを見つけることのできる女の子が出ているのを見たことがあります。なぜその子が四つ葉のクローバーを見つけられるのか、専門家に聞いても分からなかったそうです。おそらく無意識的に、イメージを頭の中で処理しているのではないかと思いますが、そういう能力は大人になるにつれて失われていきます。なので若い人の中には適当にフレームを切っても、無限にある可能性の中から選択肢を出すことができる人がいます。それはただの突飛な思いつきのこともあれば、世界を変えるような画期的なアイデアの場合もあるかもしれません。がそういった天才的なひらめきは、考えに至った根拠を説明することができない(アイデアの本質を見失わないために、なぜこの考えに至ったのか説明できるのは重要です)し、再現性も低いので、打率をキープするにはいかに独自の観点から論理的にフレームが切れるかが大事かなと思っていて、それにはある程度経験と訓練が必要です。大きな問題を考えるときには、フレームの中でさらにフレームを分けて考えることもありますし、雰囲気とか、なんとなく青っぽいみたいな空気感がフレームになることもあります。そういう意味では、ある程度ロジカル思考な人と、ひらめき思考の人が一緒にアイデアを考えたほうがうまくいくのかなと思います。

明日までに研究論文のテーマを考えないといけない人とか、会議で事業計画を出さないといけない人も、まず「考えること」について考えてみてはいかがでしょうか。